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2007.10.5


おじさんの500円玉

屈斜路湖は
昨夜からの雨が
朝になっても
まだ降り続いていた

早朝
ぼくはひとりで
美幌峠へ向かった

美幌峠まで
車で約20分
濃い霧に包まれたような
厚い雲の中のような
そんな天候だったので
どうせ
峠に行っても
なにも見えないかもしれないと
途中で何度かあきらめかけたが

雨雲を突き抜けて
峠では雨が降っていなかった

この日の朝
ぼくは
今年亡くなったおじさんが着ていた
マウンテンパーカーを
初めて着た

ポケットに入れた
レンズキャップを
取り出そうと
手を入れたら
500円玉があった

この上着を
おじさんが最後に
いつ着たのか
どこで着たのかは
分からないが
確かに
おじさんの500円だった

ぼくの心に
おじさんが
「朝ちょっと寒いから、いっしょに暖かい缶コーヒーでも飲むかね!」
と話しかけてきた

ぼくは
その500円玉を持って
自動販売機に向かい
美幌峠からの
屈斜路湖の風景を見ながら
缶コーヒーを飲んだ

1時間ほど
ひとりで撮影していたが
ぼくのこころは
カメラの大好きだったおじさんと
ずっといっしょだった





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